天使か悪魔か8

ぼくはそのまま家に帰った。

そして「神」と名乗っていた男に貰った注意書きに目を通してみる。

「きみの良心に期待している」

と一言だけ書かれている。

なんだそりゃ、注意書きでもなんでもない。

ぼくは早速トカゲを使ってみることにした。

「ピポパポピン!」時は止まった。

その証拠に時計の秒針が止まっているし、扇風機もピタッと止まった。

一番びっくりしたのはスズ虫の鳴き声が一切やんだことだ。

そうか、音っていうのは空気の振動だって聞いたことがある。

時を止めれば空気の振動だって止まるから、ぼくの耳には届かない。

そうか、時を止めた世界には「音」は存在しないんだ。

たとえそれがぼくの動作によって発生した「音」や

ぼく自身の発する「声」だったとしても……。

……まぁ、時を止めている時点でみんな止まってるから

誰の耳にも聞こえないのと同じ事なんだけど。

つまり、ぼくが今、どんなに大きな声で騒いでも、歌っても大丈夫だってことだ。

深夜2時、ドキドキしながら

「来るならきやがれってんだ!ばぁーろーい!!どうした!ああん!?俺が怖いのか!!この腰抜けどもめ!!」

とのどが痛くなるぐらい大声で叫んでみた。

アクション俳優のモノマネだ。

普段の状況ならお隣さんまで響いてるはずだ、誰かの耳に入ってるのは間違いないし

もし耳に入れば「この時間に何してんだ!!」とこっぴどく叱られてしまうだろう。

だけど、返事が返ってこない。

少し間を置いてみたが同じことだ。

ふふ。

こりゃ良い。

時の止まった世界に「音」は存在しないことが証明された。

急に眠気がした。

トカゲのスイッチをもう一度押し、眠りについた。

このトカゲを使って明日どんなことをするのか考えながら。

 

 

 

つづく