ぼくはそのまま家に帰った。
そして「神」と名乗っていた男に貰った注意書きに目を通してみる。
「きみの良心に期待している」
と一言だけ書かれている。
なんだそりゃ、注意書きでもなんでもない。
ぼくは早速トカゲを使ってみることにした。
「ピポパポピン!」時は止まった。
その証拠に時計の秒針が止まっているし、扇風機もピタッと止まった。
一番びっくりしたのはスズ虫の鳴き声が一切やんだことだ。
そうか、音っていうのは空気の振動だって聞いたことがある。
時を止めれば空気の振動だって止まるから、ぼくの耳には届かない。
そうか、時を止めた世界には「音」は存在しないんだ。
たとえそれがぼくの動作によって発生した「音」や
ぼく自身の発する「声」だったとしても……。
……まぁ、時を止めている時点でみんな止まってるから
誰の耳にも聞こえないのと同じ事なんだけど。
つまり、ぼくが今、どんなに大きな声で騒いでも、歌っても大丈夫だってことだ。
深夜2時、ドキドキしながら
「来るならきやがれってんだ!ばぁーろーい!!どうした!ああん!?俺が怖いのか!!この腰抜けどもめ!!」
とのどが痛くなるぐらい大声で叫んでみた。
アクション俳優のモノマネだ。
普段の状況ならお隣さんまで響いてるはずだ、誰かの耳に入ってるのは間違いないし
もし耳に入れば「この時間に何してんだ!!」とこっぴどく叱られてしまうだろう。
だけど、返事が返ってこない。
少し間を置いてみたが同じことだ。
ふふ。
こりゃ良い。
時の止まった世界に「音」は存在しないことが証明された。
急に眠気がした。
トカゲのスイッチをもう一度押し、眠りについた。
このトカゲを使って明日どんなことをするのか考えながら。