そういえば、昨日も今日と同じ雲の形をしていた!
いや……。
時が止まっていたとすれば「昨日」じゃない。
昨日だと思っていた日は「今日」だったんだ。
ここに落ちる前の出来事を思い返してみた。
穴に落ちる直前、ぼくはトカゲのスイッチを入れた。
兄を追いかけようとして。
そうだ。
トカゲのスイッチを入れて時を止めてから足を滑らせ、この穴に落ちたんだ。
それから一日経ったと思っていたけど、空は明るくなったり、暗くなったりしてない。
実は一秒も経っていなかった……。
……つまり、ぼく以外の人間はずっと止まっていた事になる。
それなのに無駄なSOSを送っていたというわけだ。
トカゲを探さなくちゃ、まず時間を元に戻さなきゃ……。
「あれ?」
無い。
トカゲが無い!
いつもズボンのポケットに入れておいたのに。
落としたのか?
穴の中を探す、が、見つからない。
ひょっとして……。
嫌な汗が流れる。
ひょっとして……。
……地上に?
今、自分の身に起こっている絶望的な状況をぼくは理解した。
「穴に落ちる前にトカゲを地上に落っことしたんだ!」
なんてことだ!
どうすることもできない!
時の止まった世界で動けるのはぼくだけ。
世界でたった一人、ぼくだ。
そのぼくがこの穴から自力で地上に出ることは不可能。
地上に出ることが出来なければトカゲを回収することも不可能。
トカゲを回収することが出来なければ時を戻すことも不可能。
つまり、時を戻す事が出来なければ「誰の助けも来ない」
永遠に。
ぼくは終わりを覚悟した。